守り続けるなんて言えない

 

 男性が女性への愛を表す言葉としてもっとも格好いい言葉は何だろう。

 「僕は君を守り続ける」

 この言葉だったら広く同意をしてもらえるんじゃないかな?

 でもね、もてない男的にはこの言葉は決して言えない。

 だから、もてないんだ、こういう格好いい言葉を言ってこそもてるんだ・・・そんなアドバイスが飛ぶかもしれない。

 でもね、僕は言えないし、言わない。もてない男の語り部として。

 「もてない男」というのは、私が最近・・・こういう感じだろうと思い、定義しているのは次の通りである。

 自分がもてない・・・なぜだろう、それは自分に何かが足りない、「ダメ」な部分があるからだろうという内省的な原因帰属をせざるを得ない性質の男性だ。

 そのような内省なくして、もてない男は存在し得ない。そもそも、内省しなければ自分をもてないなんて思いようがない。内省しない者は自信満々で、たとえステディな異性がいなくても、自分が「もてない」なんて思いもしないのは明らかだ。

 そう、内省こそもてない男の最大の特徴である。内省があるからコンプレックスや劣等感も持つし、そのコンプレックスを補償しようとがんばったりもすることは、語り「もてないことへの自覚はあながち悪いものじゃない」で語ったとおりだ。

 そんな内省がちな「もてない男」たちが、「僕は君を守り続ける」なんて言い得るだろうか?

 否である。

 自分自身を内省をもって振り返っているのである。今後自分がやっていけるかわからない。そもそも人間関係が苦手だから「もてない」意識を持ってしまっているのだから。そんな僕にどうしてそんな言葉が言い得ようか・・・自分自身がその後うまくやっていけるかどうかの保証もないのに・・・そのように思ってしまうわけである。もてない男の内省は、語り「俺ってだめくね?」に語ったような感じで、しばしば自分への自信のなさにつながる。

 このような思考に走り、「僕は君を守り続ける」という気の利いたせりふの一つも言えない「もてない男」・・・情けないだろうか?

 私はそうは思わない。

 この厳しい世の中、普通に渡るのだって容易じゃない。

 社会人としていっちょ前にやっていくのだって容易じゃないし、非常に長時間の大変な労働が待っていたりするのはちょっと居酒屋で社会人の人の愚痴を聞けばすぐにわかる。そう、そんな中で頑になってしまうかもしれない。事故に遭ってしまうかもしれない。過労で体をこわす例は残念ながらよく聞く話だ。過度のストレスから精神疾患を患ってしまうのは社会問題になっていることで周知の事実だ。こんな落とし穴が数限りなく例示できるこの世の中で何の担保もなく、将来は不明なのに「僕はあなたを守り続ける」という言葉は、格好はいいかもしれないが、無責任千万な言葉とも思うのである。

 だから、内省が先に立つ「もてない男」が、その点を鑑みてかのフレーズが言えなくてもそれはかえって、もてない男の「誠実」さを表すのではないだろうか。

 うじうじしているように見えるかもしれない。だから、もてないのだと揶揄されるかもしれない・・・しかし、それは責任感のある誠実さにつながると考えられないだろうか。

 実際、私が妻に愛を語っていたときも「すっと君を〜」という言葉は言えなかったし、言わなかった。それとは対極の「こんなにダメだけどいいの?大丈夫?」といった確認を聞くことが多かった。

 内省的な「もてない男」であった私はどうしてもその辺を伝えざるを得なかったのだ。

 その内省吐露によってずいぶん異性に引かれてきたのも事実なのだが・・・妻は「まぁ、大丈夫、私もそうだから、ふたりでやっていけば大丈夫よ」といった旨を言い続けてくれた。だから、心の底からこの人と一緒になりたいと思ったのだ。

 そのような経験から、私はけっして「もてない男」と自覚している内省的な方々に、格好いい台詞を言えるようになれと主張はしない。今のままでいいんだと言いたい。

 その内省がコンプレックス・劣等感につながったとしても語り「もてないことへの自覚はあながち悪いものじゃない」で語った補償の心理機制により、がんばりにつながっていくことだってあるのだから。

 ひとつだけ言いたい。自分の内省気質を受け入れてくれる人と出会えたら、離してはいけない。それだけは言える。

 運良くそういう人と出会えてよかったねという思いもあろう。しかしながら、私も順風満帆ではなかった。出会ってからの方が大変だったかもしれない。妻の入院、結婚式の土壇場キャンセルそのほか、本当にいろいろなことがあったけれど、離さないでやってこれた。私の人生をかけて抱えた内省を受け入れてくれる人は他にかけがえがないという思いがあったから離さないでこれた。

 内省気質を持ちながら・・・それを受け入れてくれる人が表れたら離さない。そこに「もてない男」のゴールがあるんじゃないかな。


(2006年7月24日)

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