いまそこにある現実を前にして

 今(’98.10)、面白いなあと思うCMに缶コーヒーBOSSのものがある。これは2パターンあって、アメリカ大統領クリントン バージョンとK1(異種格闘技戦のトーナメントの代表的なものと言えよう)において強いことで知られる選手、アーネスト・ホースト バージョンである。

 前者はある居酒屋で中年サラリーマン風の男が居酒屋で日米交渉か何かの話をしている様子で「俺だったらガツンと言ってやるよ、ガツンと」といった旨の発言をしている最中に、いきなり、アメリカのクリントン大統領との会談の席にトリップしてしまい大統領から「君の率直な意見を聞こうじゃないか、ガツンと言ってくれ」と言われて、さっきまでの強気の発言とは裏腹に、ただただ、たじろぐばかり。

 後者はK1の試合を観客としてみていた青年が「ああーあんな蹴り食らっちゃだめだよ、俺ならよけちゃうよー」と言った旨のは発言をしているところで、その戦いのリングの上にトリップしてしまい、ファイティングポーズを取るアーネスト・ホーストを前に、まさしく蛇ににらまれた蛙状態で動けなくなる青年と言った描写である。

 両者に共通したしめは、たじろいでいる中、ポケットから缶コーヒーBOSSを取り出して飲むと言うエンディングである。

 まあ、なぜ、そこで缶コーヒーBOSSを飲むのか、また、なぜポケットにBOSSが入っているのかはいまいち分からないが、商品の説明をしなければならないCMの宿命と理解しよう。ま、面白いからいいのである。

 このCMは当事者であることとそうでないことの違い、また、もっともらしく考えを述べることはできてもいまそこにその現実が来たときにはなかなかうまく動けないものだという人間のもつ二つの面をうまく表現しているので面白く感じられるのだろう。

 恋愛においてはこの二つの面が特に顕著に出ませんか?知り合いから打ち明けることができないという恋の悩みを相談されたとき、「なんだあ、思いきって言いなよ、私ならそうするな」とか言っちゃいそうじゃないですか?それは自分が当事者でないから言えることではないですか?今ここに自分の想う人が現れてしまったとしたら知り合いに言ったように自分も行動できますか?自分の想いを伝えられますか?

 CMのような状況がこんな恋愛マターに関しても起こったら面白そうですよね。「なんだよー、しっかりしろよー、告白しなきゃなにも始まらないんだぜ」なんて言ってた男が突然、高層ビルの上の夜景の見えるムーディなバーかなんかにトリップしてしまって目の前には自分の想う女性が座っていて「○○君、どうして今日私を呼んだの?」とか言って目をうるませちゃったりしている・・・。彼はどう振舞うでしょうね。多分、CMと同じくおろおろするばかりでしょうね。

 でもここで、「そうさ、君が好きだからその想いを伝えるためさ」とか、「君の瞳に乾杯」とか決めちゃえる人は真の大物なのだろうなあ。

 え?私はですって?まあ、おろおろする方ですよね、多分。そうでなけりゃ、ここでもてない男は語っていません。今までを振り返ったって、あの時・・・ ・・・。やめましょう、過去を振り返ったってしょうがない。

 でもいまそこにある現実を当意即妙にこなす、これは永遠の目標ですね。恋愛に関してはそこらへんの力がすごく大事になるのかもしれない。今までの後悔を無駄にしないためにもそれをばねにこんどこそ一世一代の大勝負と感じたら、一つ行動に移してみましょうかね。

 

戻る